樹木解説
高さは普通4-6m、大きなものは10mを越える。樹皮は淡灰褐色。葉は対生し、長さ6-12cmの広披針形または長楕円形で、先は尖り、基部はくさび形。ふちはほとんど全縁か、またはごく細かい鋸歯がある。10月、葉のわきに橙黄色の小さな花が多数束生し、強い芳香を放つ。花冠は直径5mmで4裂する。雌雄異株。雄花には雄しべが2個と先が尖った不完全な雌しべが1個ある。日本には雌花はない。萼は緑色で浅く4裂する。
10.03.04昭和記念公園 |
10.04.24上福岡 |
08.11.09上福岡葉縁は鋸歯のあるものとほぼ全縁で波状のものがある |
09.09.27栃木 |
小説の木々
重たげな雨雲がゆっくりと町を通り抜けた日、下校途中に傘を畳んだ小春は制服の袖が長くなった自分たちと同様に、空も装いを変えたことに気づいた。腕を差し入れたらいかにも冷たくて気持ちが良さそうな、澄んだ薄紫色の空が広がっている。ちぎれ雲の端は銀色だ。鼻先をくすぐる香りに振り返れば、マンションの入り口に植えられた金木犀がぽつぽつと橙色の花を咲かせていた。しっとりと濡れ、雨の匂いと混じり合う。(「骨の彩り」綾瀬まる)
「トイレの砂にまだGARAの匂いが残っている・・」オンナが呟いた。どんな匂いなんだとは訊き返さなかった。いつだったか、キンモクセイがいい匂いだと目を細めたオンナに、赤ん坊のときに患ったジフテリアの後遺症で鼻の利かないオレは、味にたとえたらどんな具合だと訊いたことがある。オンナはいろんなたとえの言葉を並べていたけれど、匂いを実感することは出来なかった。(「骨風/矩形と玉子」篠原勝之)
日に日に復帰への自信が失われてゆく秋の日、道ばたで金木犀のにおいを嗅いだ瞬間に「諦め」が勝った。うまい理由も見つけられず、せき立てられるように再出発の用意を始めたあのとき、自分はなにより東京の街を出たかったのかもしれぬと思った。手足を前に伸ばすのではなく、風に押し出されたのか。それとも目減りする貯金に気力が萎えかけていたのか。視界にある雪景色がことさらノリカの問いをつよめていく。・・・スポンサーなしでやっていこうと決めたのが去年の秋、金木犀のにおいを吸い込んだときだったことも、ずいぶん遠く見えた。(「裸の華」桜木紫乃)
ふいに窓から一陣の風が吹きこんだ。咲きかけの金木犀が、せつないほどあざやかに匂いたった。(「侵蝕」櫛木理宇)