樹木解説
高さは10-25mになり、細い枝が枝垂れる。樹皮は暗灰色で縦に裂ける。葉は長さ8-12cmの披針形、線状披針形で先は次第に細くなる。ふちには細かい鋸歯があり、裏面は粉白色。3-5月、葉より早くまたは同時に基部に3-5個の小さな葉を付けた尾状花序をだす。雄花序は長さ2-4cmで雌花序より大きい。雄花の雄しべは2個で葯は黄色。雌花の子房は狭卵形で花柱はごく短い。雄花も雌花も苞は淡黄緑色で卵状長楕円形。雌株は少ない。
08.12.02有楽町 |
08.12.02有楽町 |
10.03.22新宿御苑 |
13.03.22伊勢市 |
小説の木々
夕日で赤く染まりはじめた大川の川波の間に小舟が紛れ込んだのを潮に、橋を北詰へおりて、袂の老柳の葉を一枚むしると、そっと口に含んだ。「鎌倉は涼しいよ。朝に浜風、夕べに山風、一日中、涼しい風が吹いているんだ」柳の葉を嚙む。口中に淡く苦味が走って、そのせいで少し汗が引いた。暑さしのぎの清涼剤がわりに柳の葉を嚙むのは、柳橋の芸者衆の仇な習わしであった。ちいさいころ、口に柳の葉をくわえて歩いている芸者衆がばかに格好よく見えて、みんなで真似たものだった。(「東慶寺花だより」井上ひさし)
路は在から城下に入って、両脇に柳の木が並ぶ。柳原では、目ぼしい路のあらかたで柳の枝が揺れる。・・不意に風が吹き渡って、煽られた柳の枝が行く手を遮る。踊る枝を右手で払いながら、重秀は続けた。・・風は凪いだが、収まっていない。変わらずに柔らかい陽のなかを、ひと片の風花が舞った。・・風花はまだ舞っている。城下を見おろす峰の頂きはもう白い。・・また風が勢いを取り戻して、柳の並木がざうざうと鳴る。(「かけおちる」青山文平)
夏にはそれは涼しい陰をささやかな前庭に落としてくれた。雨の日には無数の銀色の水滴を柔らかな枝に輝かせていた。風のない日にはそれは深く静かに思索し、風のある日には定まりきらぬ心にあてもなく揺らせた。小さな鳥たちがやってきて、高く鋭い声で語り合いながら、細くしなう枝に器用にとまり、やがてまた飛び立っていった。鳥たちが飛び去ったあとの枝は、しばらくのあいだ楽しげに左右に揺れていた。(「女のいない男たち/木野」村上春樹)