樹木解説
高さは5-18mになる。葉は長さ6-13cmの広倒卵形で洋紙質。裏面は淡緑色。3-5月、枝先に直径6-10cmの芳香のある白い花が開く。花の下に葉が1個付くのが特徴。花弁は6個で基部は紅色を帯びる。萼片は3個で小さい。集合果はこぶが多く、長さ5-10cm。9-10月に熟すと袋果が裂け、赤色の種子を白い糸で吊り下げる。
09.03.22立川 |
12.04.01昭和記念公園 |
12.04.05森林公園 |
08.10.25銀座 |
09.08.01神代植物園 |
09.09.21上福岡 |
12.04.01昭和記念公園 |
11.11.25神代植物公園 |
補足
ハクモクレン |
コブシ |
タムシバ |
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開花時期 | 3月中旬 | 3月下旬から4月 | 4月から5月 |
花弁 | 直径20cmくらいの白い花弁が6枚、萼片も同様で区別が付かず花弁が9枚あるようにみえる、厚ぼったく丸みを帯びる | 9cm程度の白い花弁が6枚、小さな萼片が3枚、花弁基部は淡赤紫を帯びる事がある | 10cm位の花を1個ずつつけ,日が当たると平開、白色で花弁は6枚、小さ目の顎片は3枚、合計9弁の様に見える場合もある |
花弁の向き | 上向き | 斜め上もしくは横 | 斜め上もしくは横 |
葉 | 葉は互生し短柄があり、10-18cmくらいの大形の広倒卵形 花の下に小葉が付かない |
9-17cmくらい、広楕円形から倒卵形で、表面は緑色で裏はやや白緑色、無毛で全縁でやや波うつ、ハクモクレンに比べ小振り、タムシバに比べて幅が広く、先端に近い場所で最も広い 花の下に小葉が付く |
互生、7-14cmくらいの楕円形から卵状被針形、中央部付近で最も幅が広い、やや薄く硬く無毛で裏面は帯白色 花の下に小葉は付かない |
小説の木々
緑色の、わずかに開いた芽を求めて尾根のほうに登っていったら、松林が雑木林に移るあたりに大きな木があり、白い花が咲いていた。「こぶしだなあ」五十歳を過ぎたあたりからだろうか、これみよがしに華々しく咲いてせわしなく散る桜があまり好きでなくなり、空が適度に透けて見えるように咲くコブシの清楚な白い花を好むようになった。ひとかかえもありそうな幹に手をあてて見上げれば、白い花の隙間からのぞく空はあまりにも深い青で、思わず幹に抱きついたら、そのまま昇天しそうな快感が睾丸から尾骶骨に突き抜けた。・・あのとい、木には白い花が咲いていた、そのいちばん下の太い枝に、途中で切られた麻縄が垂れて、ばらけた先が風に揺れていた。(「白い花の木の下」南木佳士)
坂を降り切った低地には、碌安寺池の奥の泉を水源とする川が流れて来ていて、橋から五十米ばかり上流の土手に、辛夷が一本だけ高だかと枝を張っている。新しい葉が芽吹くのにさきがけ、艶を帯びて香りのある花が開く春先になると、教師に率いられて来た国民学校の生徒たちが、その附近に散らばって写生をする風景が、一年前までは見られた。(「この国の空」高井有一)
小雨がつづき、晴れた日にも濃い霧がたちこめて陽光をさえぎっていたが、刑務所の裏山に辛夷の白い花が点々とみえはじめると、春色が急速にひろがった。桜、梅、桃が蕾をふくらませて競い合うように花弁をひろげ、それを追って躑躅が朱色の花をつけた。雪がとけてあらわれた地表も緑におおわれたが、相変わらず気温は低く、霧が町をつつみこんでいた。(「破獄」吉村昭)
田んぼはレンゲで埋めつくされた。あたたかな風に吹かれて花が揺れると、薄ピンクの雲のなかを歩いている気になる。あとで鍬きこんで肥料にするらしい。畦道には小さなスミレの花がいっぱい咲いた。あちこちの家の庭先で、里山の緑の合間にも、コブシが白い炎のように無数の花をつけている。とにかく、春の勢いはすごい。これまではモノクロにくすんでいた画面に、一瞬で色がつくみたいだ。(「神去なあなあ日常」三浦しをん)
路の両脇に聳える辛夷枝に目を遣りながら大輔は言った。暮れなずむ空に、月が真ん丸に近い円を描いて、青い光をたっぷりと降り注ごうとしている。北の桜はまだ花芽だったが、辛夷は蕾が綻びかけていた。(「約定/春山入り」青山文平)